9月10日。小説を書くためには、と小説家の増山実先生がおっしゃった。尻尾をつかまねばならん、と。どういう小説を書くのか、なにをテーマにするのか、読者になにを伝えるのか。トピックというかテーマというかは日常生活の中にあるのだけれど、あまりにも変化のない生活をしていると、書いた文章は日記になる。そんな小説に読者は手を伸ばさん。
ありがたいことにいろんな経験をしてきた。ありがたいことに全国のいたるところから来てくれとご連絡をいただく。おかげで変化のない生活というわけではない。それにしてもそれがルーティンになってしまうと書くに書けない。新しい生活や考えを求めて、尻尾をつかむために福島に行くことにした。
元同僚、現在は福島大学准教授の前川直哉先生(以後、本人を呼ぶときと同様に「前川君」と書く)に連絡をとった。9月に行くから、悪いけど時間をくれ、と。前川君は快く引き受けてくれ、であれば浜通りをご案内しましょうと言ってくれた。福島では前川君がメディアになってくれる。
福島では、ご存じのとおり、震災の翌年からボランティア活動を始めた。最初は何をしていいのかわからなかった。できることと言えば教育支援ぐらいである。子どもたちに英語を教えた。先生方に指導法を紹介した。どうして勉強しないといけないのかわからないという子どもたちに、故郷をよくするために勉強するのやと話したこともある。
前川君が灘校を若くして退職して福島に移住していなければ、もしかしたら今でも福島を訪れていなかったかもしれない。仮に何かしたくて福島を訪れていたとしても、当時は友達などひとりもおらず、結局なにもできずに無力感を抱いて帰宅していたことだろう。今ではFacebookの「友達」は福島の人たちだらけである。すべて前川君のおかげだ。
明日は浜通り、つまり津波の被害が大きかった場所に連れていってくれるという。請戸小学校と東日本大震災・原子力災害伝承館(こちら)には訪れたことがあるが、妻は初めてである。新しいインスピレーションを頂いて、新しい尻尾をつかまえて、そして新しい作品に活かそうと考えている。
木村達哉
追記
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