10月24日。本を書く仕事をしているので「物書きです」と名乗る。そうすると、講演などのリーフレットに載せるのだろう、代表作はと聞かれる。どれも可愛い分身である。代表作を自分で言うと売れている子どもだけを贔屓しているような気分になる。先方に任せることにしている。
講演の主催者からプロフィールはこれでいいでしょうかとメールが送られてくる。代表作の欄には『夢をかなえる英単語ユメタン』『東大英語リスニング』とある。書店に並んでいる両著だし、実際にどちらも毎年けっこうな方々に買っていただいている。間違いなく代表作なのだろう。
こういう場合、学校専売品が掲載されることはあまりない。三省堂の「まるまる」シリーズや数研出版の『5ステージ英文法完成』もかなりの学校や塾でお世話になっているのだけれど、代表作に選んでいただくことはほとんどない。代表作は書店に並んでいるなかから選ばねばならないのだろう。

そうなるとすこし考えてしまう。さまざまな出版社から94冊の本を出してきたのに、代表作が株式会社アルクからしか出ていないというのはどうなのだろう。確かにアルクからの点数が一番多いのは事実であるし、毎年同社の人たちと会議をしたりセミナーに出かけたりしている。
が、近著は三省堂やGakkenから出している。アルクからはもう2年以上出していないし、今のところ営業担当から依頼された本を執筆中ではあるが、まだ編集担当も決まっていない。本当に出せるのかどうかもわからず、早くしてくれと同社のお尻を叩いているところである。
代表作を尋ねられるたびに、あさ出版、講談社、KADOKAWA、ラグーナ出版、文英堂、三省堂、宝島、朝日出版社、啓林館、Gakken、ベネッセ、旺文社といった版元の編集者と営業担当の顔が浮かんでは消える。なんだか申し訳ない気持ちになる。もっと売れるはずだったのですが、と今さらながら頭を下げてまわりたい気持ちになる。
そんな今日、三省堂の編集者TさんからLINEが届いた。新刊の打ち合わせをしましょう、と。うーん、このタイミングで来たか。書斎の椅子に大きくもたれかかった。『ユメタン』と『東大英語リスニング』は確かに押しも押されもせぬ代表作なのだが、三省堂から出す次作もその仲間入りをするべく、生来の野良である自分の尻を叩きながら良いものを創ろう、と改めて思うにいたった。
木村達哉
追記
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