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心の傷を癒すということ

出版社 角川ソフィア文庫
著者 安克昌

間もなく多くの犠牲を生んだ阪神淡路大震災から28年を迎えようとしています。出張でないかぎり、神戸市の東遊園地という広場で行われる追悼行事に毎年参加しています。会場には、ボランティアの方々が作られた竹灯籠が並べてあります。灯篭の中には水が張ってありますので、火を灯した蝋燭を浮かべ、手を合わせます。実行委員会はすべてボランティアによって運営されていますが、毎年この追悼式を運営するにも蝋燭代をはじめとしたさまざまな費用が必要です。数カ所に募金箱が置かれていて、この募金額次第では今後の運営ができなくなる可能性もあります。ですので、僕は手を合わせるため、そして募金をするために毎年東遊園地に足を運びます。

震災当時は各所で様々な方がボランティアとして立ち働きました。今回ご紹介する本は、自らも被災しながら、全国から集まった精神科医のボランティアをコーディネイトし、精神科救護所・避難所などで、カウンセリング・診療などの救護活動を行なった安克昌医師の手記です。精神科医としての立場からみた震災後当時の様子が丁寧に書かれています。先生のお人柄が偲ばれる優しくも毅然とした語り口調で心の傷を癒すにはどうすべきなのか大変勉強になります。解説には「苦しみを癒すことよりも、それを理解するよりも前に、苦しみがそこにある、ということにわれわれは気づかなくてはならない」と安先生は書かれています。残念ながら安先生は2000年に39歳という若さでガンでお亡くなりになりました。生前の安医師が暗中模索しながらも確立した「心のケア」が、その後の災害時の「心のケア」として取り組まれています。これから医師なろうと志している人や教育に関わる全ての人に読んでほしい本です。

今年の追悼行事「1・17のつどい」は、3年ぶりに通常の規模で行われるということです。東京の日比谷公園でも開催されるとのことですので、時間が許される方はぜひ足を運んでいただきたいです。また、中井久夫神戸大学医学部教授(当時)の「災害がほんとうに襲った時」と併せて読んでいただければと思います。