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ロシア語だけの青春

出版社 ちくま文庫
著者 黒田龍之助

代々木の「平和ビル」の中に伝説のロシア語学校がありました。名前はミール。高校生だった著者はその門を叩き、全力でロシア語学習に取り組みます。ロシア語を聴き、先生方に発音のミスを何度も指摘され、打ちのめされながら発音し、露訳と和訳を経て暗唱へと向かいます。その方法で成長した著者の黒田先生は、通訳の仕事をしながらもやがてロシア語の教師になる道を選びます。

私の英語指導とあまりにも似ているので驚きました。とは言っても、灘校での私の指導なり『ユメタン』や『ユメジュク』のコンセプトなりは、私が通った大阪の通訳養成学校の受け売りであってオリジナルではありません。黒田先生は「この方法しか知らない」と書いておられますが、それは私も同じ。この方法しか知らないのです。でも、この方法によって英語が聴ける、話せる生徒たちを何百人と育ててきました。

が、それにしても黒田先生のロシア語学習は凄まじい。ロシア語学習塾であるミールが凄まじいのでしょうけれども、それに縋り付いていった黒田先生をはじめとする生徒たちのエネルギー量にも驚かされます。自分の学習の甘さ、軽さを感じずにはいられません。

最近の語学には見返りを求めるのが普通となっています。最たるものが資格試験です。外国語はスポーツのように、級やスコアを競うものになってしまいました。資格がなければ自分の実力が示せないのです。外国語能力は人に見せびらかすものになりました。

黒田先生は、そして私も、そんなことは考えたこともありません。ロシア語が、英語が、自由に話せるようになれば素敵な人生だなと思いながら勉強してきました。こういうタイプの外国語学習者もいるんだなと思っていただければ幸甚です。そして、単に外国語が勉強したいだけの変な人が増えてくれればいいなと願って、本書を推薦しました。すべての外国語学習者に読んでいただきたい一冊です。