5月22日。昨日はベネッセコーポレーションの方々がわざわざ甲子園までおいでくださった。と言っても、あまりいい知らせではなかった。生きていると良いことばかりではない。禍福はあざなえる縄のごとしであり、一寸先は闇である。
SNSの世界では、たくさんの方々による人生の報告がひしめいている。こんなにいいことがあったと歓喜の瞬間を綴る人もいれば、胸の内をそっと吐き出す人もいる。私のFacebookは、日々訪れてくださる方々に笑顔を届けたくて、できるだけ明るい話題を提供している。
そこに映る私は、あたかも悩みのない、満ち足りた日々を生きているように見えるかもしれない。だが、もちろん、人生はそうそう単純ではない。誰もが同じようにもがきながら生きているのである。
ベネッセの方々の、あの申し訳なさそうな顔が頭から消えない。
こればかりはどうしようもないなと自分に言い聞かせるようにひとりごち、打ち合わせ場所から自宅までとぼとぼ歩いた。通りすがる人たちが幸せそうに見える。しょうがないと何度も口がつぶやく。そんなことはこれっぽっちも思っていないのに。
作家というのは、ごく限られた達人を除けば、身分の保証とは無縁の存在だ。本を「創っている」ように見えて、その実、依頼に応じて書いているだけであり、こんな本を書きたいと自らの企画を通すのはそう簡単なことではない。出版社もまた、生き残るのに必死なのである。青息吐息は作家だけではないのだ。
絶版か。
売れない本は、音もなく消えていく。いつの時代も、それは変わらない。九十三冊。本棚には、その一部が既に絶版となり、どこか恨めしげな顔で私を見下ろしている。最後の「しょうがない」を口に出して、私はまた机に向かう。今書いているこの一冊が、せめて残るようにと祈るような気持ちで。
木村達哉
追記
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