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『勇者たちへの伝言』を読んで

2025.05.23(金) 12:00

5月23日。増山実先生の『勇者たちへの伝言』を読みながらうなってばかりの一日。「勇者」とはそういうことか。なんと懐かしい名前が―福本や高井、加藤や山田が-出てくるんやと思いながら読み進めた。関西学院大学の学生時代、西宮北口駅前の路上で酔っぱらっては吐いてばかりいたことを思い出した。

慶応義塾大学のフランス文学に進むはずだった。まさか二年続けて拒まれるとは思ってもいなかった。落胆は深く、心の奥底まで悲しみは広がった。望んで入ったわけではない大学の入学式に臨む私は、罰を受けるような面持ちで椅子に座っていた。子どもだった。

自宅を出て下宿生活に入ったが、日々は空虚だった。本ばかり読んでいた。街の音も、隣室の気配も、すべて自分とは無縁に思えた。かと言って、奈良の親元には絶対に戻りたくなかった。戻れば傷口をさらに広げることになる気がした。

基礎ゼミでは大学から勝手に万葉集を教える教授のゼミに放り込まれた。英文科なのに万葉集かよ、わけわからんわが口癖になった。憧れていた三田文学に名を連ねる可能性がゼロになった私は、酒を飲んでは吐いた。ふらつく足で西宮北口をさまよいながら「これが人生か」と神を呪ってばかりいた。能力も努力も足りなかったが、認めたくなかった。

基礎ゼミで隣に座った男が声をかけてきた。のちにその彼とバンドを組み、卒業後は同じ職場で働くことになるとは、当然思ってもみなかった。彼は阪急ブレーブスの大ファンで、西宮球場で売り子のバイトをするんやが一緒にせんかと言ってくれた。したい気持ちもあったのに断った。なにも受け入れたくなかったのである。

それでも西宮球場には足を運んだ。福本や山田、加藤、足立、大熊といった選手たちがカクテル光線に照らされていた。応援団のだみ声が楽しかった。一緒になってヤジを飛ばした。今では選手にヤジを飛ばすことさえ憚られているそうだ。その代わりにみんなで歌を歌って応援するらしい。大阪球場も西宮球場も姿をショッピングモールに変えた。大学を卒業してからは球場に行かなくなった。最後に阪急ブレーブスの試合を観たのは広島との日本シリーズだっただろうか。

西宮球場は傷ついた私の精神を解き放ってくれたように思う。数年前、あるゴルフ場で加藤秀司さんをお見かけした。トイレに立ったとき、たまたま隣になった。西宮球場には何度も行き、救われましたと言うと、嬉しそうに、そしてはにかんだように、笑顔で会釈をしてくださった。

『勇者たちへの伝言』、読み終わりたくないな。そんな気分でいる。

木村達哉

追記
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