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肺に影があります

2022.06.08(水) 09:10

サラリーマンじゃなくなったので、健診は自分で受けないといけません。労働者に健診を受けさせねばならないという法律があります(受けない労働者は解雇できる)ので、スタッフを引き連れて兵庫医科大学に行き、人間ドックを受けました。胃カメラでおえおえ言いながら、年一回おえおえ言うのもいいよね!と言いながら帰ってきました。

それが4月。

翌月に結果が戻ってきました。なになに、γ-GTPの値が高いだと? そんなのは男の勲章なんや!それと? 肝脂肪? んなもん自分でわかっとるわい!痩せればええねやろ、痩せれば!ダイジョブダイジョブ!それからえっと、字が小さくて読めんのや、なになに?・・・え? あれ? えーっと・・・

肺に影があります???

母が肺がんで亡くなりましてね。そりゃ今際の際は苦しんでいました。なにしろ呼吸ができないんですから。それを見ていて、こちらも心が苦しくなりました。最期の言葉は「こんなに苦しいならいっそ殺して!」でした。ちなみに、祖母は子宮がん。伯父は胃がんでした。

肺に影があります、やと???

そうかぁ、ついに俺にも来たかぁ。人生にはいろんなブルースがあるもんやなぁ。そう思いながら、続きを読みました。「8月に兵庫医科大学で再検査を受けてください」と無機質な言葉が並んでいて、紹介書がはさみ込まれていました。

8月ってえらい悠長なこっちゃなぁと思いながら、かかりつけ医である甲子園の名医のところにそれを持っていきました。「どないしたん? げんきぃ?」といつもどおりに。「元気やったらここに来ませんて。人間ドックを受けたんですけど、肺に影があるって戻ってきましたんや」「えー?去年のデータある?」「ありまっせ。これですわ」とお見せすると、じっと見つめていた先生が「あのな、あんまり気にしなくてええと思うけど、来月になったらおいで。CTもMRIもうちにあるから診たげるわ。今やってほしいやろ。でもな、放射線を浴びすぎることになるねん」とおっしゃいます。それが5月。

それからの1か月は人生をいろいろ考えましたねぇ。小学校のときに車にはね飛ばされたときも、中学のときに吉野川で釣りをしていて溺れたときも、高校のときにぜん息で病院に運ばれたときも、社会人になって6000万円の借金を抱えたときも、なんとかなるやろうと思っていました。

母と祖母と伯父を見ている僕としては、この「肺に影がある」という文言で、もっとも死に近づいた気がしました。そして自分の人生について、大切な人について、死について、愛について、幸せについて、いろんなことをじっくり考えました。すみません、だからほとんどYouTubeは更新できませんでした。

昨日、甲子園の名医のところに行きました。再検査を受けにです。いつもの「げんきぃ?」のあと、「よっしゃ、CTを撮るから移動して。すぐ終わるわ」と言われて検査室へ。両腕を上げて、おそらく2枚の画像を撮っていただきました。しばらくして診察室に呼ばれました。待合室にいる子どもの泣き声が、そしてそれを諫める母親の叱責が、僕を見送ってくれました。「あのなぁ、ちょっとわからんわ。影なんかないけどなぁ」とおっしゃいます。

パソコンで画像を拡大したりぐるぐる回したりしていらっしゃったのですが、顔を上げて、目を大きく見開いて、「これかな?」と。ちょっと待って、自分だいぶ前にも撮ったやろ。あれと比べようか。そう言って、2016年に撮ったCT画像と比較しました。「あぁ、ちゃうわ。この突起みたいなのは6年前のにもあるわ。とすれば、ちゃうなぁ」と。

僕は先生の「だいじょうぶ」を待っていました。患者にできることは何もありません。というより、僕は患者なのか?という気持ちでいっぱいでした。待合室で読んでいた松永多佳倫さんの本が少し重く感じました。

「このデータな、東大の先生に送るわ。しっかり分析してもらう。明日もういっぺんおいで。電話でもいいけど、どうする?」とおっしゃるので「いや、来ます」と言って帰りました。4000円を払って、家まで歩いて帰りました。

翌日(つまり今日)の夕方までが長く、なんだか胸が痛い気もします。自覚症状があるわけないよなぁなんて思いながら過ごしました。抱えている仕事がなかなか進まず、メルマガを書く気にもならず、YouTubeで話す気にもなりませんでした。さくらと散歩したりドライバーの素振りをしたりして過ごしました。そして夕方。

木村さん、これな、東大の先生から所見が戻ってきてるわ。なんかいろいろ書いてあるけど、要するにまったく問題なしや。兵庫医科大学の人間ドック、かなり精密やから骨かなにか写ったんやろう。ついでに肝臓、膵臓、腎臓、ぜんぶ診てくれてはってな。ぜんぶ異常なし!今日は支払いもなし!このまま帰ってええで!よかったなぁ!でも、一応な、気になるやろうし半年後にもういっぺんおいで。

にじむ甲子園球場の灯りを、ひとりで見ていました。今回のことは神様からの戒めだったのかもしれません。お前なぁ、もうちょっとまともに生きなあかんで。生きてる時間を大切にしないと、いつかは死ぬねんで!ちょっとな、最近だらだらし過ぎやわ!と警告を受けたように思います。僕、もう少し生きられそうです。

木村達哉拝